前回に続いてトウガラシの仲間であるピーマンとパプリカについて見ていきます.山本紀夫著 トウガラシの世界史 辛くて熱い「食卓革命」によればトウガラシの貴重性,重要性が世界各地に広まり,現在では世界で最も栽培され消費される香辛料となりました.
また,コショウが熱帯地域しか栽培できないのに比べ,トウガラシは温帯でも栽培できるため,誰もが安価に手に入れられる様になったことで急速に世界に広まりました.
さて,話はピーマンとパプリカに移ります.どちらもトウガラシの栽培品種です.つまり,トウガラシもピーマンもパプリカも全てトウガラシです.
ピーマンとパプリカのデータ
科:ナス科 Solanaceae 属:トウガラシ属 Capsicum 種:トウガラシ C. annuum 学名:Capsicum annuum L. 'grossum' 英名:bell pepper
英名はどちらもbell pepperです.ただし,和名はそれぞれ,ピーマン(緑色,白,黒,熟すると黄,橙,赤)とパプリカ(黄色,橙,紫,茶色で甘い)です.
両者とも果実は肉厚でカプサイシンを含みませんので辛くありません.辛くは無くてももピーマンは独特な青臭さで嫌われ者の野菜の代表として有名でした.
パプリカとビタミンC
1990年代になってパプリカが普及し,青臭さが無い新しい野菜として注目されました.
ピーマンもパプリカもビタミンのカタマリと言われる程栄養満点でビタミンCはレモンよりはるかに多く含まれています.パプリカはハンガリーが原産地です.
ビタミンC(アスコルビン酸)の研究も実はパプリカから大量に抽出できることで進みました.ハンガリーのアルベルト・セント-ジェルジAlbert Szent-Györgyi博士は,この功績によりノーベル賞を受賞しました.
そもそもアスコルビン酸ascorbic acidの名まえはビタミンCの不足で起きる壊血病scorbutic diseaseの治療に有効な物質という事から命名されています.
1927年に牛の副腎から発見した還元力の強い物質を氏は当初ヘキスロン酸hexuronic acidと名付け共同研究者Joseph Svirbelyと共に構造解析に成功しました.
それが1932年にビタミンCだと判明し,抗壊血病因子のアスコルビン酸と名まえがつけられた訳です.
(上の分かりにくい表現は以前ビタミンの話でビタミンとは機能名で物質名では無いことを話しましたが,それと関係しています.12年前の1920年にドラモンドSir Jack Cecil Drummondがオレンジ果汁から還元性のある抗壊血病因子を抽出し,これをビタミンCと呼ぶことを提案しています.)
現在ではL-アスコルビン酸はグルコースを原料として工業的に生産されていますが,当時柑橘類から抽出される分量は微量で直ぐに酸化してしまいます.大量に抽出することができず,研究が容易に進みませんでした.
アルベルト・セント-ジェルジ博士が食卓のパプリカの中から大量のヘキスロン酸(後にビタミンC)を見つけたのは氏がハンガリー人でパプリカがハンガリーの代表的な国民食だったという偶然からでした.
牛の副腎から集めるよりパプリカから大量のヘキスロン酸(後にビタミン C)が取り出せることがわかり研究は進みました.
いずれにしてもトウガラシ類にはビタミンA, C, Eが含まれています.とりわけオレンジ色のパプリカには色素でもあるβ-カロテン(ビタミンAの元)の量が多く含まれています.ピーマンよりビタミン量も豊富です.これを機にトウガラシ類の有用性について見なおしてみませんか?
今日はこれまで.ではまた.