秋らしく朝晩が涼しくなってきました.つい先月まで緑色をしていた木々の葉も黄色くなったり,赤くなったり,褐色になったものが混ざってきました.
今日は黄葉と紅葉のお話で.どちらも「こうよう」と読みます.褐葉は「かつよう」と読みます.
なぜ緑色が黄色や赤色や褐色に変わるのでしょう?
一言で答えると,植物の節約術の結果です. 少し詳しく説明しますと,秋になって日射しが弱くなってくると葉でおこなわれていた光合成という光を栄養に作り変える作業の採算が合わなくなってきますので,葉を捨て去る(落葉)準備をします.そして・・・.
黄葉
その過程で緑色をしたクロロフィルという光合成色素も分解されますので,緑色の色が失われます.緑色が失われると,残された色素であるカロチノイドの黄色成分だけが残り,葉が黄色に変色します.これが黄葉です.
紅葉
紅葉の方は緑色のクロロフィルを分解すると同時に赤色のアントシアニンという色素をつくる植物に限っては赤く色が変わります.これが紅葉です.
なぜアントシアニンがつくられるのかはよくわかっていません.これから先は仮説なのですが,アントシアニンが赤いカーテンとして植物を守るため,青い光を遮っているのではと考えられています.
クロロフィルは緑色なので青い光(450nm付近)と赤い光(700nm付近)を吸収しています.その分解の過程で,秋の弱い光ですが紫外線も含み,有害な活性酸素が発生します.そこで,青い光を遮断する目的で赤いアントシアニンがつくられるのではということです.
褐葉
黄葉と同じ原理でタンニン性の物質(主にカテコール系タンニン,クロロゲン酸),それが複雑に酸化重合したフロバフェンと総称される褐色物質によって褐色に変色します.これが褐葉です.
まとめ
ある植物は黄葉し,あるいは紅葉し,褐葉するのは,色素を作り出す能力の違い,気温,水湿,紫外線などの自然条件の作用による酵素作用発現の違いによるわけですが,まだ進化の過程で試行錯誤中なのかも知れませんね.
用語解説
クロロフィル(Chlorophyll):
葉緑素ともいいます.4つのピロールが環を巻いた構造であるテトラピロールに,フィトール(phytol)と呼ばれる長鎖アルコールがエステル結合した基本構造です.
マグネシウムがテトラピロールの中央に配位しています.テトラピロールは450nm付近と700nm付近に特徴的な鋭い吸収帯を持っています.
カロチノイド(カロテノイド,carotenoid):
8個のイソプレン単位が結合して構成された化学式C40H56の基本骨格をもちます.光合成における補助集光作用や光保護作用,抗酸化作用があります.現在750種類以上が同定されています.いずれも,400-500nmに吸収帯がありますが,吸収スペクトルの違いで黄色,橙色,赤色など違う色で見えます.
アントシアニン(anthocyanin):
アグリコンであるアントシアニジン部位のB環(構造式右側のベンゼン環部分)のヒドロキシ基の数によりペラルゴジニン,シアニジン,デルフィニジンの3系統があり,糖鎖の構成により様々な種類があります.
アグリコンが発色し,中性溶液の色はペラルゴニジンが鮮赤色,シアニジンが紫色,デルフィニジンが紫赤色です.
クワ,ブルーベリー,ブラックベリー,プルーン,ビルベリー,アサイー,ブドウ,ナス,赤シソなどの黒からムラサキ色がアントシアニンによる色です.
今日はこれまで.ではまた.