秋の味覚は尽きませんね.今日は葡萄についてのお話です.
日本の五大果物は生産量順に温州ミカン,リンゴ,ナシ,柿,ブドウです. 鎌倉時代初期に甲斐国勝沼(現在の山梨県甲州市)で栽培が始めらました.比較的古くからある果物です.江戸時代に入ると甲州(勝沼)名産となり,芭蕉も詠っています.
勝沼や 馬子も葡萄を食ひながら
鎌倉時代から食べられてきた葡萄は,現在でも約9割が生食として消費されています.一方,海外ではワインとして約7割が消費されています.その他に干しブドウやジュースなどとしても消費されています.
ブドウの歴史
葡萄は紀元前3000年頃すでに栽培されていて,ワインの製造もおこなわれていました.ギリシャ,ローマ時代を経てヨーロッパ各地に広まりました.
日本の葡萄は東南アジア系ヨーロッパブドウが中国経由で入り,自生化したものが甲州で栽培されました.
明治以降の葡萄の歴史
明治以降になるとヨーロッパからワイン用として新品種が導入されました.しかしながら,生育条件が合わず,失敗に終わりました.一方,アメリカからの品種はうまく定着しましたが,ワインには不適の為,生食またはジュース用として消費されました.
ブドウの特性
葡萄は甘くて水分豊富な果物です.甘さはブドウ糖と果糖によるものですが,およそ1:1の割合です.
ブドウは上部(房の根本)が甘く,房の先端は甘味は弱いです.コツとして,下の方から順に食べていくと最後までおいしく食べられます.
世界の葡萄産地:総生産量 約7,000万t
中華人民共和国(13%) イタリア(11%) アメリカ(9%)
日本の葡萄産地:約18万t
ブドウの代表種
ブドウの品種は10,000種以上あります.現在栽培されている品種の多くはヨーロッパブドウとアメリカブドウの交配にいよるものです.
ブドウは色で分けられます.赤,黒,緑です.
赤ブドウの代表(甘みの強い品種が多い)
デラウェア:国内作付面積第2位 糖度が高く,種もなく食べやすい. 1850年頃アメリカで発見され,1855年頃にオハイオ州デラウェアで命名.日本には1872年(明治5年)頃に導入.昭和35年の無核化技術の開発によって栽培が拡大しました.粒が小さいため近年では栽培が減少傾向です.
黒ブドウの代表
巨峰:黒ブドウの定番,国内作付面積第1位 「石原早生」と「センテニアル」を交配し,1942年(昭和17年)に誕生.正式品種名は「石原センテニアル」です.
ピオーネ:国内作付面積第3位 「巨峰」と「カノンホール・マスカット」を交配し,1973年(昭和48年)に登録されました。種ありと種なしがあります.
キャンベル・アーリー アメリカ生まれの黒ブドウ.日本には1897年(明治30年)頃に導入.甘味の中に適度な酸味があり,濃厚な風味があります.
緑ブドウの代表(適度な酸味がある)
マスカット・オブ・アレキサンドリア:ブドウの女王 糖度は高く甘い.北アフリカ原産で、明治初めに日本に導入されました.
ロザリオ・ビアンコ 「ロザキ」と「マスカット・オブ・アレキサンドリア」を掛け合わせて育成され1987年(昭和62年)に品種登録されました.
種なしブドウについて
栽培の過程で「ジベレリン*」などの植物ホルモンを使用することで種をつくることができます.房をジベレリン液に浸すことで種無しブドウになります.処理は満開前と満開後の2度にわたって行います.その際にジベレリン液を赤い色素で着色しておき,処理の有無をあとで確認できるようにしてあります.
*注:ジベレリン gibberellin ジベレリンは日本人技師、黒沢英一が発見した植物ホルモンです.植物ホルモンの総称で百数十種類確認されています.
生長軸の方向への細胞伸長,種子の発芽,休眠打破,老化の抑制などを促します.
ちょっと脱線,ロッシェル塩について
ブドウの実には酒石酸が多量に含まれています.戦時中に電子部品の材料として利用されました.
ロッシェル塩(酒石酸カリウムナトリウム)は強誘電体であり、圧電素子の主要部品となります.圧電素子とは物理的な力(圧力)を電気に換える,または電気を圧力に換える素子です.ピエゾ素子とも言います.
力を電気に,電気を力に変換することで,電子回路と物理現象を結びつける役割は重要です.圧電スピーカー,マイク,振動センサー,ライターの点火装置,発信回路,フィルタ回路など様々な用途があります.
ただし,ロッシェルの圧電素子は高湿度下で不安定なので現在は使われていません. ロッシェル塩、ワイナリー「サドヤ」(甲府市) https://www.sankei.com/region/news/150812/rgn1508120025-n1.html
ブドウのデータ
目:ブドウ目 Vitales 科:ブドウ科 Vitaceae 属:ブドウ属 Vitis 学名:Vitis spp. (*sppとは複数種あるという意味) 和名:ブドウ 英名:Grape
花:穂状の花.野生種は雌雄異株,栽培種は一花に雄蕊と雌蕊があり自動受粉します.
実:緑または濃い紫,果肉は薄緑,房状に生ります.6月-10月が収穫期となります.
葉:両側に切れ込みのある15-20cm程度
高さ:つる性の低木(つるは30mにも及ぶ)
生息条件:平均気温が10度から20度程度の地域が栽培適地.ヨーロッパブドウは乾燥を好み,年間降水量が500mmから1600mmの地域が良いです.水はけがよく日当たりが良い土地が好適です.
分布:北半球では北緯30度から50度、南半球では南緯20度から40度の間
原産地:中近東地方(ヨーロッパブドウ),北米(アメリカブドウ)
自生種:ヤマブドウ,エビズル,サンカクズル
今日はこれまで.ではまた.