秋は味覚の宝庫です.街角には美味しい果物が山ほど積み上げられています.きょうは梨についてのお話です.
梨の味
梨の形はリンゴに似ていますが,味は違います.リンゴより果汁が多く,食べるとサクサクしています.このサクサク感が梨の味の特徴でもあります.
果肉をよく見ると小さい粒があり,それがこのサクサク感をつくります.これは石細胞(せきさいぼう stone cell)とよばれるもので,細胞壁が厚く発達し木に近い状態に変化(木化)することでできます.これはペントザンやリグニンという物質が蓄積することでできます.人の胃腸内では消化することができませので,腸を刺激し便通を良くする効果があると言われています.
梨の90%が水分です.甘味は尻の方が強いです.芯には酸味があります.梨の芯が酸っぱいことから中酸(なかす),転じて「なし」となったと言う説もあります.中が白いことから中白(なかしろ),転じて「なし」という説などもあり,定説はありません.
ナシの種類
ナシを世界的に見れば,和ナシ,洋ナシ,中国ナシに分けられます.全てバラ科ナシ族です.ここでは和ナシを取り上げています.
和ナシの中で現在主流となっているのは,「幸水」,「豊水」,「新高」,「二十世紀」です.地域差もありますが,この4種で80%以上を占めています.その他に,「あきづき」,「新興」,「南水」,「ゴールド二十世紀」,「おさゴールド」などがあります.
ナシの歴史
ナシと日本人との関りは古く,弥生時代頃からと考えられています.そのころから野生のナシである「ヤマナシ」が食用されていた形跡があります.
江戸時代になると100品種以上が果樹園で栽培されていました.明治に入って「長十郎」という種が神奈川県川崎市で,二十世紀が千葉県松戸市で発見され,それ以降はこの2品種がほとんどを占めていました.特に「長十郎」は8割を占めていたと言われます.
戦後になると優良品種が多数発見されたり,品種改良が進み,現在では「長十郎」はほとんど栽培されなくなりました.
三水と現在のナシの主流
1959年に幸水,1965年に新水,1972年に豊水と次々に優良で美味しい品種が登場します.この三品種を特に山水と呼びます.
幸水
幸水はナシの王様です.「幸蔵」と「菊水」の交配で生まれました.「なし農林3号」として認定登録されています.現在最も一般的な梨ですので,皆さんご存知だと思います.全国生産の40%が幸水です.千葉県,茨城県,福島県などが代表的な産地ですが,日本各地で生産されています.
豊水
生産の30%を占める第二位のナシです.「幸水」と「イ-33(石井早生× 二十世紀)」の交配で生まれました.幸水と同じく千葉県,茨城県,福島県などが代表的な産地です.
新水
「新水」だけは残念ながら,病気に弱く,サイズも小さいので,現在ではあまりつくられなくなりました.でも,隠れた人気があり,石川県,兵庫県,神奈川県,広島県,その他でつくられています.
二十世紀
山水ではありませんが,第三位の生産量があります.鳥取県産のナシの80%は本種です.ナシには赤ナシ,青ナシの区別があります.本種は青ナシ系の代表で他のナシはほとんど赤ナシ系です.
このナシは明治時代の1888年に千葉県大橋村(現在の松戸市)で13歳の松戸覚之助が,親類宅のゴミ捨て場に生えていたものを発見したところから広まります.現在この地は千葉県松戸市二十世紀が丘梨元町となっています.関東地方ではあまり栽培されなくなり,今では主に鳥取県で栽培され鳥取県の特産品となっています.二十世紀梨の花は鳥取県の県花となっています.
ナシのデータ
目:バラ目 Rosales 科:バラ科 Rosaceae 亜科:サクラ亜科 Amygdaloideae 属:ナシ属 Pyrus 種:ヤマナシ P. pyrifolia 変種:ナシ var. culta 学名:Pyrus pyrifolia (Burm.f.) Nakai var. culta (Makino) Nakai 和名:ナシ(梨) 別名:和梨(ワナシ) 英名:Nashi Pear, Sand Pear, Russet apple pear
花:3-4月白色の花が咲きます.5枚の離弁が普通ですが,色や花弁数の違うものもあります.雄蕊は約20本,花柱は5本です. 収穫期:8-10月,黄褐色または黄緑色でリンゴに似た直径10 - 18センチメートル程度の球形の果実が生ります.果肉は白色で甘く,果汁が多いです. 高さ:10mの木本性です.栽培の場合は台風を避けるためひら種に枝を導き横に広げて育成します. 葉:長さ12cm程の卵形,縁に芒状の鋸歯があります. 分布:沖縄県を除く日本各地,北海道南部から鹿児島県まで広く栽培されています. 原産地:中国,日本
あとがき
文中で「梨」,「なし」,「ナシ」と表記してきました.表記方法は,主に慣習に従います.食品,日常品としては漢字で表記し,よみをあらわすときはひらがなも使い,学術あるは科学・技術的な呼び方ではカタカナを使う様にしています.今後もそのように表記するつもりです.個人の感覚の部分もありますので,表記のブレはでてくると思います.悪しからず.日本語は複雑ですね.
今日はこれまで.ではまた.