山河海空

自然から日常生活まで,独自の視点でみていきます.

今,読書中の本:家康,江戸を建てる 門井慶喜

今,読んでいる本の中で,後まで心に残りそうな部分を紹介します. 書名:家康,江戸を建てる 著者:門井慶喜 出版社:祥伝社

良書です.本書は昨年2017年5月1日の記事でも紹介しました.以前はオーディブルで散歩中に聴きました.今回は成書を手にして読書しました.本来の読書です.本を読み進めて行くと,不思議なことにオーディブルで聞いた時の散歩の場所が頭に思い浮かびます.散歩のコースを頭で辿れば,内容を思い出すことが容易です.どうも私の記憶力は情報と場所をリンクしているようです.この現象は前から気づいていましたが,聞きながら歩いたコースさえ思い出せば,次から次からストーリーを思い出します.オーディブル恐るべしです.

室内で読書している時もイメージが浮かんで記憶できますが,実在の場所と違うので,順番通りに思い出せません.外を歩きながら読めば良いのでしょうが,二宮尊徳みたいになってしまいますので,今のところ散歩+イヤーフォンがベストに思えます.

さて,話題を本書にもどします.5月1日の記事では伊奈忠次インパクトが強かったので,伊奈家の事業にフォーカスを当てました.今回は本書全体を通して見ていきましょう.

「家康,江戸を建てる」ストーリー

本書の第一話は江戸の大改造,河川の流れを変える話です.住みにくく,農業生産量も低い土地である,江戸を改造するために,関東平野の河川の流れを計画的に変えていきました.これが江戸を100万都市に発展させる原動力になりました.

本書の第二話は金貨の話です.食料生産が増えて,流通が盛んになれば,次は貨幣制度が重要になります.家康が江戸を開発したころは,秀吉の時代ですから,大判の権威は秀吉方の後藤家に集中していました.貨幣には権威が無ければだれも信用しません.

大判を好んだ秀吉は,小判を軽んじていました.ところが商人にとって大判は価値が高すぎて使えません.小判の価値に目をつけた家康は,橋本庄三郎という有能な若者に目をつけます.

数年後,関ヶ原の戦いで権力を握った家康は,伝統的な後藤家の権威を橋本庄三郎(強引に引き継いで後藤庄三郎となる)へつなぐことで,貨幣の実権も手に入れることになります.

庄三郎のつくった貨幣製造所が全国の金座,銀座となり,特に江戸の金座が今の日本銀行本店,銀座が銀座二丁目付近というのは歴史の流れを感じます.

本書の第三話は飲み水の話です.江戸で飲める水の量は限られていました.安全で美味しい水が飲めなければ都市は発展できません.誰が,どのように美味しい水を探して,水道をつくったかの苦労史が描かれています.水道橋が江戸時代に造られた,堀を越えて水道を城内に渡す橋だったとは知りませんでした.

本書の第四話は石垣の石の話です.現在でも江戸城の石垣は残っていますが,よく考えて見れば,あれだけ大きな石を探して来て,加工して積み上げるのはかなり複雑な作業です.具体的には伊豆半島から切り出してくるわけですが,石切という専門職がかかわります.

特に巨大な岩は貴重で,切り出し方を失敗すると大きな石は切り出せません.石垣の石の中で特に大きく,由緒正しく,色や形の整った最上のものは城の防衛の霊的なシンボルとして鏡石と呼ばれます.江戸城の鏡石と吾平という一人の石切の生涯を軸に話が展開します.

本書の第五話が最終話となります.天守閣の話です.なぜ,家康は白い天守閣をつくったのか,そして時代劇に必ず出てくる白壁が漆喰という新素材であったこと.漆喰の原料は石灰(水酸化カルシウム)で関東では超貴重品だったこと.

その超貴重品の石灰を関東近県で探し回り,やがて値崩れするほど産出できるようになったことなどが物語になっています.

最後に家康が江戸に寄せた「思い」と「白い天守閣」の関係が語られます.その数十年後,大火で天守閣が焼失しましたが,以来なぜ再建しなかったのかが秀忠の「思い」から推察されています.

以上が各話のあらすじです. 一つ一つの物語が独立していますが,相互に関連しているので,独立して読むことができ,興味深い読み物です.

今日はこれまで.ではまた.